カテゴリー「2000 暗渠で川跡・地形をピーリング」の記事

暗渠ハンター 「車止め」を構造と機能で分類する。

暗渠サインのうちでも愛好者の多い「車止め」。
バリエーションもいろいろで、
誰もがお気に入りの車止めを持っているはず!
でも人からお気に入りを聞かれて誰かに伝えるときに、
なんて言っていいかわかんなかったりしますよね。
(「推しメン」にならって言うと、「推しドメ」ですかね)

というわけで、いろいろある車止め、試みに分類と命名をしてみました。
今回は、簡単にその概要をご紹介しましょう。

1 分類軸
分類の基本方針は
・構造や意匠の度合い(簡素なのか、作りこみが激しいのか)
・機能性、主にメッセージ性の度合い(物理的に「止める」だけか呼びかけ等もするのか)

の二軸によって、
【車止めを、その構造と機能で分けてみる】
こととしました。

1



2 具体例の名づけ
並行し、いろいろなタイプの車止めに、その特徴があらわせるよう
名前を付けてみました。

まずはその形状から、
「Iの字」
「逆U字」
「かしげコの字」
「Aの字」。

ほとんどの車止めの基本形状はこれにあてはめられると思います。

これに、看板を組み合わせることで『金太郎』や『橋の名』などの
情報を付加しているタイプがありますよね。これらはまとめて
「面掛●●(形状名)」
と呼ぶことにしました。

また、基本形状から発展していろいろ装飾などが加えられる物件がありますが、
その方向によって
「網掛●●(形状名)」
や、
「らんま」
「置物」

と名付けました。

3 クラスタのまとめ
さらにこれらをそれぞれクラスタとしてまとめ3つに大別します。
それぞれを、
「【ホネだけ】クラスタ」
「【看板】クラスタ」
「【装飾】クラスタ」

と名付けました。これで新たな亜種が出てきても、
クラスタまでの分類名は変えずに済むと思います。

では、ここまでのものをプロットしたものをご覧ください。

2

4 具体例のプロット
さあ、それぞれの形状名に対応する写真を載せてみたのがこちら。

3_2



どうしても分類できなかった例外、というか
(そもそもこれって車止めかよ)というたぐいのものは、
端っこに「障害物」として寄せておきましたw

さて、改めて伺います。
あなたの推しドメはどのタイプ?

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暗渠ハンター 暗渠アンケート、中間報告。

先日、マクロミルさんの「クエスタント」というサービスを
タダで使ってアンケートを実施いたしました。
ご協力いただいたみなさま、どうもありがとうございました。
参加してくださった方も80名となったので、
そろそろ集計結果をご紹介しようかと。
(無料では100サンプルまで入力可。もうすこし置いておきますのでまだの方は是非!)
というわけでいったんn=80で〆てみます。
******************

Q1は、「あなたはこのブログにいらっしゃる前に「暗渠」という言葉を知っていましたか」。
1
そりゃそうだろという結果ですね。
むしろ「知らなかった」という方はなんでこのブログにきていたのでしょう?
というわけでクロス集計の結果を見てみたら、
「偶然検索エンジンでヒットして」だそうです。
ありがたいことです。

Q2は「あなたが興味を持っているもの」(複数回答)。
2

まあ1位は鉄板で「暗渠」。
以下「川跡」「歴史・昔の風景」「地図・古地図」と続きます。
この結果を「現在の来訪者のみなさまのニーズ」と読み替えるとなかなか面白いですね…。
(「境界ネタ」とかあんまりウケない、ということが確認できました…w)

Q3は「実際に暗渠を見に行ったことがありますか」。
3
「よく」+「たまに」を併せると実際に見に行ってるのは8割。
みなさん実際に主体的・能動的に暗渠を見に行かれる
行動派の方々ばかり、であります。さすが。

Q4は「暗渠の魅力を以下の3つに大別するとします。あなたが興味を抱く順番を教えてください」。
こちらは、3つの中から「1位はこれ‼」とみなさんが選んだものだけご紹介しましょう。
4_2

これはね、ちょっと予想外の結果になりましたw
おおざっぱに結果をいうと、
「ネットワーク」が5割、
「歴史」が3割、
「そのものの風景」が2割、ってところでした。
私の予想では、
3つ殆ど僅差か、あるいは
「風景」がちょっと抜け出るくらいか、と思っていました。
その根拠は、このブログで扱ってる内容が
そんなかんじのバランスだろうなあと自分で思っていたからです。
(そもそもその根拠自体非常に感覚的なのですが)
でもね、この1位の「ネットワーク」って「地図に表すことができる情報」じゃないですか。
あるいは地図を思い浮かまたは見ながらでこそ
ふむふむって楽しむことができる情報。
そういう意味ではやっぱ地図好きの方が多いんだなあなんて思いました。
自分もですけどね。
まあそう考えると納得がいく結果ですね。
…「風景」はちょとハードル高いのかなw
ちなみに私はこれが一番なんですけどね。

Q5では「好きな川・川跡」を順位をつけて3位まで挙げてもらいました。
1、2、3位と順位づけして答えていただいたので、
それぞれ5、3、1点と加重配分して集計したランキングです。
5
ほほー。水窪川はダントツで1位に輝きましたね。
2位が神田川。
3位は僅差で桃園川です。
以下4位は渋谷川、5位が荒川。
おそらく好きな川ってのは、
自分の生活圏にある(あった)かどうかに大きく左右されそうな気がします。
なので流れが長い神田川、渋谷川、荒川なんかは多くの方の人生に
いろんな関わりがあるのだろうなあなんて推測もできますが、
水窪川とか桃園川とか。完全暗渠のローカル川(いい意味で)ですよこの二つは。
しかも水窪川なんて全長4kmくらいだし。
暗渠としての面白さで評価が高くなっているのでしょうか。
桃園川についてはたぶんnamaさんが継続的に取り上げてることなんかも影響してるんだろうなあ。
6位になると同点で石神井川、白子川。
ちなみに、このあたりまでの順位は
加重配分しない単純な票数で勘定したランキングと
全く同じ結果となっています。
唯一異なるのが「白子川」。
白子川は、
「順位に関係なく回答に登場した回数をカウント」する単純集計では10位なのですが、
加重配分したこの結果ではググッと上位に食い込んできます。
それだけ「特定の人に思い入れを強く持たれる」マニアックな川、
と言えるかもしれません。
ほかを見ると「藍染川」も同じような傾向があるといえそうです。
(単純集計では16位)
その逆は「前野川・出井川」「和泉川」でしょう。
「前野川・出井川」「和泉川」は単純集計では10位ですが
こちらでは「前野川・出井川」が19位、
「和泉川」は表から外れ21位となってしまっています。

Q6からは、質問は当ブログ寄りにさせていただきました
「こちらに最初に訪問してただいたきっかけ」を伺っています。
Photo
やはりほとんど「偶然検索エンジンでヒットして」ですね。4割。
「他のwebからのリンク」が2割弱。
リンクを張っていただいているみなさま、どうもありがとうございます。
この場をお借りして改めてお礼申し上げます。
これと同じくらいなのが「ツイッターでのURLから」ですね。
さすがすごいなtwitter。
少数ではありましたがへええー‼と感心したし特に深く感謝申し上げたいのは
「本や記事見て」です。
本や記事には敢えて当ブログのURLは書かない/張らないようにしたのですが、
それでも探し当ててくださったとは…有難い限りです。
ささ、こっち、もっと奥にお入りになってお茶でもどうぞどうぞ。
なんならビールでもどうぞどうぞどうぞ。

Q7は来訪頂いている頻度について。
6_3

「1週間に1度」が4分の1で最も多くいらっしゃいます。
まあ手前どもがここのところ週イチ更新ペースになってしまっているから、
これが定着しているのかもしれません。
にも拘わらず「ほぼ毎日」来てくださっているみなさん、
ほんとうにありがとうございます!!!
アナタですアナタ、毎日来ていただいているアナタ!アナタはもう立派な暗渠モノw

そうそう、おかげさまで先日、この駄ブログの記事が600件を超えました。
これもひとえにいつもご来訪していただいているみなさまのおかげです。
感謝申し上げます。
初期の記事の稚拙さにはもう目も当てられないほど恥ずかしいのすが、
まあ数をこなしていると自分でも忘れてしまっている記事なんかがあったりして、
たまに読み返してみたりしています。ほんっと恥ずかしいですが。
敢えて消しません。

Q8ではほかによくご覧になる川・暗渠系サイトについてもお尋ねしたところ、
よく私がリンクを張らせていただいたり
実際にお会いさせていただいたりもしている方々のサイトが挙げられています。
それらはほぼ左のウインドウにあるリンク先と同じ‼
むしろそこにないものとしては
「デイリーポータルZ」「東京DEEP案内」といったメジャーサイトや、
私も知らなかった以下のようなサイトをご紹介もいただきました。
などなど。ご覧になってみてみて‼

Q9ではフリーにご意見ご感想などをご記入いただいたのですが
みなさんからたいへんあったかいお言葉を賜りました。
ほんとうにどうもありがとうございます。
みなさんからいただいたこれらのお言葉、宝物です。
これだけでもアンケートをさせていただいた甲斐が十二分にありました。

そのぜんぶはとてもご紹介できないのですが、
こうしたらどう?というご要望を中心に
いくつかピックアップさせて頂きますね。

●写真の解像度をもっと上げて。
lotus62(以下L)→特に初期(2009年頃)の写真はもうひどいもんですよね。申し訳ございません。
また当ブログの仕様が「アップロードする写真は1M未満でね」とのことなので、毎回0.8M前後でアップするようにしています。
ですがモノによっては0.4Mくらいのものもあると思います(ごめんなさい!)。
いづれにいても、写真もしっかり見ているよ!という大変ありがたいお言葉です。アナタのような方がいてくださることを念頭に、もっとワンショットを大事にしていきたいと思います。

●鴻沼(さいたま市)の調査を。
L→これまたピンポイントでリクエストをいただきましたw
ありがとうございます。何が待っているのでしょう、鴻沼に…w
行ってみましょうか!
可能であれば、なぜそう思われたかを教えていただけると
見に行き甲斐があります!!

●さいたま以外にもあちこちを紹介して。/地方にも進出して。
L→ちょうどこのアンケート実施のころは、
藤右衛門川ネタで半年引っ張ってたころでしたもんねえ…。
「オマエにそんな思いをさせてしまってごめんな」です。
(どうでもいい話ですが、カノジョに
「仕事とあたしと、どっちが大事なのよ‼?」
と問われたときの最も模範的な答えはこれだそうですw)
地方ってねーあんまり行かないんですよねえ。
でも数少ないプライベートな旅行はもう暗渠中心ですし、
地方出張ではどんなに前の晩おそくまで飲んでも
早朝に暗渠めぐりをするようにしています。
機会あるごとにご紹介していきますね!

●同好の皆で1つの川跡を辿り各々のブログに記事化してみては。
L→これ面白そう! namaさん、HONDAさん、猫またぎさん、谷戸ラブさん、味噌maxさんいつかこれやってみません?

●一緒にぶらぶら散歩したい、集いたい。
L→大歓迎です! 暗渠モノの誰かが言い出して突発的に暗渠歩きが始まることもあります(ただしそういう時はたいていメインはお酒になることも多いですw)ので、よろしかったらtwitterアカウント(@lotus62ankyo)をフォローいただければと思います。

そのほか、年代・性別・お住まいの都道府県などフェイスデータも
参考のためお答えいただきましたが、
こちらは割愛させていただきますね。

以上、80名の仲間からいただいたアンケート回答の「中間報告」でした。
この記事を書いている途中で気が付いたのですが、ちょうど今頃
暗渠ハンターシリーズを初めて丸5年が経っていました。
ほんとうにみなさまのご愛顧に感謝申し上げます。

どうぞこれからも、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

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「マトグロッソ」に拙文が掲載されました。

web文芸誌「マトグロッソ」最新号に拙稿を
東京スリバチ学会特別寄稿として掲載いただきました。

以前こんなかんじの記事をここで書きましたが、
これをもう少し「よそ行き」に整理して書き改めたものです。

Photo

あの内田樹さんや高橋源一郎さん、吾妻ひでおさんらと
同じ目次に並ぶことができる日がくるとは…しかも暗渠話でw 

機会をいただきましたマトグロッソ編集部の浦田さま、
東京スリバチ学会の皆川会長に、
この場をお借りしてお礼申し上げます。

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暗渠ハンター ヘリクツ編 「暗渠」と「川跡」

暗渠とは、正確に言うと
地下に埋設された河川や水路のこと。
(「みんなで作る土木用語辞典」より)
ですが、私や暗渠界のお歴々では
流れに蓋をされた・流れが地下化された川や水路という意味で使うことが多く、また人によっては
地下に流れがある・なしに関わらず単なる川跡(水路跡)
まで指すことが多いと思います。
私も両方で使っていますし。

今回はそんな、普段あまり考えずに使っている「暗渠」「川跡」の
言葉・考え方の整理をしておこうかな、と。

1 広義の暗渠

私は下図全体のようなかんじで、広義で暗渠という言葉を使っています。

1

で、冒頭の定義みたいにげんみつに「暗渠」とは何なんだ!ということになると
図の上半分にしるした「狭義の暗渠」、つまり
本来地表にあった水の流れが下水管等によって地下に移し替えられたもの
であるべきでしょう。
反対に、図の下半分、
本来そこにあった水の流れが地表にも地下にさえもなくなってしまった場所
は「単なる水路跡」と呼ばれるべきでしょう(ここで川跡と人工の用水跡と両方を含ませるため「水路跡」としています)。

さて、実はここで「水路跡」でなく「単なる水路跡」としたのはワケがあります。
「水路跡」と言ってしまうと、実はこの図でいう「広義の暗渠」とほぼ同じ意味範囲になります。すなわち『「水路跡」=「広義の暗渠」』です。

これまで私はさんざん暗渠暗渠と言ったり書いたりしてきましたが、
実はそれは水路跡水路跡と言っているのと同じ・・・?
「広義の」とかいちいち断らなくていい分、「暗渠」よりも「水路跡」と言ったほうが
適切かつ素直なコトバ選びなのかも知れませんね。

でもね、拙ブログ「東京Peeling!」の中の暗渠記事は
「暗渠ハンター ○○○○」でずっと通してきたし、
いまさら「水路跡ハンター」に変えるのもなあ…w
名刺に書いてる「中級 暗渠ハンター」もなによ、「中級 水路跡ハンター」に?
うーんなんだかなあw
昨年お手伝いさせていただいた暗渠本『東京「暗渠」散歩』も、
もしかしたら『東京「水路跡」散歩』?

これはいかんですねw
こうしましょう。下半分を表す「水路跡」というコトバを、上半分との対比をはっきりさせるために「ぬけがら水路」としてみます。
Photo

ちょっと落ち着いてきましたかね。

話を戻します。
いままで私が暗渠と言ってきたものは、上の図のような分け方ができますということです。
もちろんどっちも好きです。
狭義の暗渠」に対しては、
流れが目に見えなくなってしまったけれど、人知れずその地下でとうとうと水を流し続けている水のいのちのようなものを感じます。その暗渠として「第2の人生(川生)」を送る健気なライブさというか。
ぬけがら水路」には、
かつてあった流れと今の状態の対比からの栄枯盛衰というか、そこにある水の履歴の儚さを思って不思議な気持ちになります。そんなとき、今そこに地下にさえ水の流れがなくとも私には何かの流れを感じることができる、そんな感じ。以前何度かこのブログでもこういう場所を「形而上の暗渠」と呼んだりしてきたのはそのためです。

2 狭義の暗渠 の細分化

さてさて、「暗渠」と「川跡・水路跡」については一旦ここで整理がついた、
としましょう。
蛇足ですが、ついでですので「狭義の暗渠」をもうすこし分解して遊んでみます。
暗渠を追っているときどき
「古地図ではこのブロックを横切って川が流れていたんだけど、
今の下水道台帳では廻り道をするように道に沿って付け替えられてるじゃん」
というケースに当たりますよね。
そこで、

下水管がある・なしの縦軸に加えて、
自然のままの流路か・人工的に付け替えられた流路か
を横軸に加えてみましょう。

Photo_2
左上、自然のままの流路で暗渠化されたものを、「ナチュラル暗渠」と呼んでみましょう。
かつての水の流れがそのまま地下に移された、いわばそっくり川の生まれ変わりとして暗渠になっている状態。
いっぽう右上は、宅地化や区画整理などによって本来の流れとはちがったところに暗渠かされたケース。これを「アレンジ暗渠」と呼びます。
まあ本来の川の表情に整形手術を施したようなものです。でも本来の流れから少しだけ変えた程度のものが多いでしょうから、「プチ整形」くらいですけどね。
というわけで、暗渠を追っていくうちに「地下の流れが直下にある・ない」と別れるところが出てきますが、あってもなくてもこ私はういう呼び名をつけることで両方を平等に有難がりたいなと思うわけです。

3 (付録)ぬけがら水路 の細分化

はさらにワルノリしてオマケ…。
同じ横軸で、下半分の「ぬけがら水路」を区分したらどうなるかな、と。
Photo_3
ひからびたぬけがらとなってしまっているところなので、こんな名前を付けてみましたー。

というわけで、たまに書いてるヘリクツ編。
今回は暗渠という言葉の私なりの定義づけでした。
ではでは今後とも、「暗渠」ハンターシリーズをどうぞよろしくお願いいたします。

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暗渠ハンター理論編Ⅳ 暗渠の遷移を記述する

前回までは、「1 暗渠・川跡の分類」という章で、
で横軸に加工度を設定し
で縦軸にもともとの状態を設定、
でこれらを合わせで暗渠・川跡のある地点を切り取って分類する
という方法をご紹介しました。

しかし、これらはあくまで「ある地点のスタティックな見え方・あり方」を記述するだけでした。
今回は新たな章立てをしたうえで、
違った縦軸を設定し
「一つの川の変化のようす」を記述してみようと思います。

2 暗渠・川跡の全体把握
新たなマトリクスとして、
横軸の加工度はそのままに、縦軸を今度は「上流」と「下流」に設定します。

Photo_10 

つまり、縦軸はタイムラインともいうべき意味であり、
上から端を発した川が流れが進むにしたがってどんな見え方の変化をしていくのか、
これを一目瞭然化するためのマトリクス、
ということになります。

この縦軸へのプロット方法は、
必要によって二つを使い分けます。
一つは「絶対距離法。
縦軸の目盛を30㎞なら30㎞と具体的な長さで刻んでプロットしていくやりかた。
これは同じくらいの規模の川二つ以上を並べて比較するのに適しています。

しかし、都内には呑川や神田川のように大静脈をなす川もあれば、
小沢川や松庵川のように
ある川の支流のひとつでありとても短い(けど変化に富んでいる)川も山ほどあります。
そういうときには上のような絶対スケールだと比較しづらい、
または短い川のほうがスペースが小さくて記述しきれない、
といった問題が出てきます。

そこで二つめは「相対距離法」です。
まあ一つの川のプロフィールを作るだけならどっちでもいいんですが、
二つ以上の川を見るときは上記の問題を避けるため、
最上流と最下流をまず上下それぞれのはしっこに位置づけておき、
全体からの比率で適切に上下の間に振り分けておく
「相対距離」によるプロットをします。
通常はこちらをお勧めします。
それに正確な距離って計りづらいでしょうw?
「だいたい何分目でこんな状態だった」くらいの記述で十分だろうと
今のところ私は考えています。

では、「相対距離法」を採用しながら、
さっそくこのマトリクスを実際の川にあてはめてみましょう。

まずは、
事例1:谷戸川です。
この川はつい最近このブログで上流から、
砧公園に入るまでの経路を追ってレポート
しています(未完)。

これを、砧公園に入る前をゴール(最下流)としてそこまでの
状態を追っていきましょう。
Photo_11

まずスタートは最上部。
諸説あるものの現在は環八の西側・成城警察署あたりが水源、と言われています。
しかしこの近辺はまったく道路と同化してしまって
水路は見る影もありません。よってレベル3の横位置となります。
谷戸川は環八を東に渡ると未舗装の水路あとが現れます。
ですのでいきなり加工度は左にググッと寄って、レベル0へ。
(まあ一部は細い舗装道路になりますが、ここでは大まかな傾向を例示するため思い切って割愛w)
再び環八を越えると笠森公園を通るところで
再び道路と同化します。つまりまた右へと振れます。
笠森公園を抜けると小田急線を南に越えるまでが蓋暗渠区間。
レベル2。
※この途中で北からの支流蓋暗渠が合流しますが、このあとも含めて支流の記述は今回は省略します。

そして山野小学校の横から長い区間はしご式開渠が続きます。
ここでレベル1。

この開渠は世田谷通りを越えるまで続き、世田谷通りの先は幅広の蓋暗渠に。
谷戸川は大きくカーブを切った後、横根橋を越えたところで再びはしご式開渠に。
ここから下流はこのマトリクスでは扱いませんが、砧公園に入ったあとは自然豊かな(?)開渠となって岡本静嘉堂での丸子川との合流地点に達します。
これら加工度に合わせてプロットしていくと上図のようなものが描けます。

ずいぶん加工度の遷移が激しく、この左右にぶれるタイムラインを見ても
谷戸川が「ダイナミックな変化にとんだ川」であることがわかります。

事例2:目黒川
次は、目黒川をプロットしてみましょう。
今回は上流となる北沢川、烏山川は置いといて、
「目黒川」という名前になる両社の合流点、池尻付近をスタートにします。
※前の事例同様、単純化するため支流もあえてプロットしません。

Photo_12

合流点から246と越えるまでは、世田谷区のお家芸、
「過剰なまでに作りこんだ緑道」が続きます。
しかも落合処理場から導水する「フェイクせせらぎ」まで設置してあるという
ご丁寧さなので、これはもう横軸は完全に右に振り切っています。
246を越えると切り立った護岸とともに水面があらわになり、開渠となります。
従って左に移動しレベル1。
但し、このような都市の大河川は大概その地下や横に大きな下水道幹線が
別に作られており、この目黒川の水面もレベル0で見られる
「ほんとうの水面」ではありません。
※7/7訂正:大型開渠の地下には下水道幹線はほとんどありません。「横」にはあります。三土さん、ご指摘どうもありがとうございました!
よって、このような場所をレベル0とするか、
「本当の水面を隠している、相当作りこんだ川」だと捉えレベル4に位置づけるかは
判断の分かれ目です。
厳密に言えばレベル4と呼ぶほうがいいのでしょうが、ここまで流れが立派になり、
また大雨の時は自然流下で
たくさんの雨水がこの谷底の川に集まってくることを考えると、
これは「手を加えられているが新たな川としての人生(?)が始まっている」
と言っていいのではないか、実際見てくれはもうほとんど川だし。
という理由でレベル0とここでは位置づけます。
あ、ちょっと情緒的すぎますかねw
そのあと目黒川は東京湾に流れ込むまでずうっとこのよう状態が続いていきます。
タイムラインを見てみると、事例1に比べて非常に安定的です。
東京の「大河川」の特に下流では、
おそらくほとんどがこのような安定的なタイムラインを示すものと思います。
もうこれらは単なる河川ではなく、
「安定した機能を求められる災害対策システム」の一部にされているからです。

事例3:呑川
呑川も、下流の構造や役割は事例2の目黒川に似ています。
が、ここでは「支流も一緒に書き込むとどうなるか」
という事例としてこの川を挙げてみたいと思います。
支流はたくさんあるのですが、
とりあえず上流をなす&距離が長くてはっきりしている
「深沢支流」(緑色)、
「柿の木坂支流」(柿色)、
「駒沢支流」(桃色)
そして「九品仏川」(水色)
をプロットしてみましょう。

Photo_13
はじめの3つは水源そのものはほとんど道と同化していて
横軸はレベル3からの出発になります。
3つはそれぞれすぐに緑道となり、呑川に合流。
いっぽう九品仏川は、
目黒通りの北、ドンキホーテあたりのはしご式開渠が
最上流として確認できたあとは一端道路に紛れ、
猫じゃらし公園で自然に近い流れを見せた後
細い緑道となったり自由が丘マリクレール通りとなったりして
呑川に合流していきます。
(詳細に地点地点を見ればもっと詳細に遷移していると思いますが)
しかしこれらが合流したあとの呑川本体は、目黒川と似たカーブを描いていきます。

この事例で問題にしたかったのは、このように
・その気になれば支流をたくさんプロットできる
・しかしやりすぎるとよくわからなくなるリスクもある

ということですw

なので、今後このタイムラインのマトリクスを使うときには
支流は支流で一本に的を絞ってプロットしたほうが、
「その川の状態遷移がわかりやすくなる」のかもしれません。
まあ目的によりけり、ではありますが。

今回のマトリクスのいいところのひとつは、
「他の川の遷移と比べられる」ことです。(いちばん下の図のように)
このときにあまりに支流をコミコミで書き込んでしまうと
ワケがわからなくなってしまいますね。
それと、一つの川の遷移も詳細に追いすぎると、これまたよくわからなくなります。
なので、このような比較に使う場合はある程度割り切っておおざっぱに
(必要ない支流はバッサリ切る&細かい状態遷移もバッサリ切る)
捉えることが必要になるでしょう。
…ある種のガサツさがね、重要になります。

事例Ⅹ:エクセルを使った記述
とはいえ、もちろん「一つの川・支流をとことん突き詰めたい」
という場合には、こと細かに状態遷移を書き込んで思う存分
くねくねさせることが必要になってきます。
ちなみにこういう場合は、エクセルを使ってこんな表を作成し、
Photo_14

表が出来上がったら「散布図」でグラフ化すると
一気に詳細なタイムラインが出来上がることになります。
Photo_15
この例では数地点しか書き込んでいませんが、
理論上このたくさん観察して地点のぶんだけ行を増やしていけば、
相当にこまかな状態遷移がタイムラインに現れることになります。
また無限にプロットしていけばそれだけ精緻な曲線が描ける、
ということでもあります。やらないけど。

そして
事例Y:複数の川の比較
記述の応用としてもう一つ。
このマトリクスを使うと、いくつかの川の遷移を比較することができます。
こんなふうに。

Photo_16

同じ川の支流どうしを比べたり、
同じ自治体の遷移の状態を比べたり、
あるいは「暗渠の状態遷移の基本パターン」を見つけたり
同一のマトリクスにのっけることでいろんな比較やパターン発見がしやすくなるはず。

というわけで、これまでシリーズで「暗渠を眺めるひとつの手法」を提案してきました。
ここまでが基本手法です。

いったんここで、「2 暗渠・川跡の全体把握」はじめ
分類に関する基本フォーマットのお話はおしまい。

次回は、これに「アプリケーション」を組み込んで記述する、
という方法論を検討してみようと思います。

ちなみに・・・・・
連載当初はこの一連のマトリクスを
「LAM=ロータス式暗渠マトリクス」と呼んでいましたが、

自分の名前を織込むという売名行為wの浅ましさにあとになって気がつき改名することにしました。
「暗渠を見るときのひとつの見方」という意味で、

ANGLE(アングル)
と呼ぶことにします。これは、
ANkyo General Level Explorer
の略でもあります(ここに並んでる英単語は予告なく変える場合もありますww)。
『この川跡を暗渠ANGLEで見ると、こんなことが言えそうだな…』
とかより多くの方に使っていただけるようになると私は幸せでございます。

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暗渠ハンター理論編Ⅲ 暗渠・川跡のスタティックな分類

今回は連載中の「谷戸川」の記事の予定でしたが、
やっぱしこの理論編を続けます。次回こそ「谷戸川」記事を挟むつもりです。

前々回は、「0 はじめに」で全体の意図を簡単にお話し、
「1 暗渠・川跡の分類 ①横軸「加工度」」
暗渠や川跡の手の加えられようによってそれを
レベル0~4に分類しました。
そして前回は
「1 暗渠・川跡の分類 ②縦軸「もともとの状態」」
として、もうひとつの軸として元来はその水路が自然にできたものなのか人工的なものなのか、
それを「静脈系」か「動脈系」かに大きく分けて、その中間的なものも含めての分類を試みました。
今回は、その2軸を縦横に組み合わせるとなにが見えてくるか、ということをお話します。
なお、②でセットした縦軸は、あくまで「地点地点の暗渠・川跡を切り取って眺める」
ことに対してしか機能しないので、
このあとは違った縦軸をもうひとつ提示することで「川の全体像を眺める」ことも試みてみます。
では、行ってみましょう。

1 暗渠・川跡の分類
③ 加工度×もともとの状態 で物件をとらえてみる

では、①の「加工度」と(下図に再掲)、

Photo

②「暗渠・川跡のもともとの状態」(下図に再掲)を、
Photo_3

二つを掛け合わせてみましょう。
そのマトリクスはまずはおおまかに、こんな絵柄になります。
Photo_4

この平面に、いろいろな事例をまずぶっこんでみます。
Photo_5

さあてではでは、左上の象限から事例をご説明して行きましょう。

事例1:空川(東大駒場キャンパスから流れる上流箇所)
Nec_0421_2

ここはもちろん自然にできた、湧水からの流れです。
だから縦軸ではかなり上のほう。
そして、ごらんのとおりほとんど護岸加工も控えめに
清らかな流れをあらわにしています。文句なしで横軸はレベル0ですね。

事例2:目黒川
Nec_0433

写真は北沢川と烏山川が合流した後の、246を少々過ぎたあたりの目黒川。
基本的には自然河川です。
が、合流式下水道との接続により大雨時は「自然流下式排水路」ともなるので、
事例1の空川よりちょっと下に。
また、見た目はドボク度たっぷりのしっかりした護岸にかこまれた開渠となっています。
なのでこれは横軸レベル1。
(実際にこの表面的な流れとは別に下水道幹線が地下に通されていますが、
その解釈については後ほど触れさせていただきます)

続いて右上の象限。
事例3:広尾商店街北の水路
Photo

前回述べたとおり、おそらくここは純粋な意味での自然河川ではなく、
また明らかな灌漑用の導水でもなく、
生活排水を起点とした「自然に排水をするための」水路。
従って縦位置は上半分ではあるが真ん中寄り。
そして現状を見れば、蓋かけではなく
地中に管が埋められてしまっているため横軸はレベル3なのでこの位置に。

事例4:桃園川
Photo_2

写真は中野区近辺の、ご存知桃園川緑道です。
杉並区天沼近辺からの水を水源に
いくつかの支流を集めて神田川に流れる自然河川。
また杉並区を流れるあたりではさかんに田んぼへの水の供給のための
用水路が作られていましたが、
本線がはっきりしていることと、
あくまでこの写真の地点ではそれらも含めて集めた谷底の流れである、
ととらえて、縦軸の上半分に位置づけます。
そして横軸ですが、
途中上流や支流では蓋暗渠がたくさん見れれるものの、
この地点でいえば派手に作りこんでいる緑道である、
ということからこの位置・レベル4でいってみましょう。

左下の象限に移ります。

事例5:玉川上水の上流
Photo_4

これは羽村取水口からすこし下ったあたり。
加工度は非常に低く、
ちょっと見ればまるで自然河川ですね。
(まあちょっと上流では実際に多摩川という大河川から導水してるわけですから…)
でも明らかな意図を以って人工で作られているから、
縦位置では一番下に位置づけます。

事例6:玉川上水 四谷大木戸からの余水吐
Photo_5

新宿御苑の東にある、昔玉川上水の余水を渋谷川に流した水路跡です。
縦軸の下のほうに位置づけられることは間違いなさそうですが、
用水本流から分かれて「自然流下が始まっている」という理由で
事例5よりは気持ち上にプロットしましょう。
実際この先渋谷川の源流を補っていくことにもなるし…。
また、今は干上がってしまった(そしてたぶん土を被せて谷を埋めている?)とはいえ
川面をなにかで覆い隠そう、という意図は比較的弱そうなので
横軸ではレベル0とレベル1の中間ぐらいにしておきましょう。

そして最後は右下の象限。
事例7:杉並の天保新堀用水
Photo_6

これは善福寺川と桃園川との間に掘られた、田を潤すための用水路です。
当然縦軸では下半分の位置となりますが、
自然河川同志を結んで掘られた、という事情で真ん中に近い位置にしました。
(まあこの事例に限らず、かなり主観も入る分類ですからwww)
そして横軸。蓋暗渠の中でも、その軌跡とカーブ仕上げは
「いい仕事してる」ことで暗渠界では有名なエリアです。
なので、レベル2の中でもぐっと右寄りに位置づけたいものです。

事例8:品川用水
Photo_7

玉川用水と並んで江戸自体からの主要用水の一つですから
文句なく縦位置は一番下。
この地点は目黒区林試の森あたりですが、
品川用水はそのほとんどが道路と同化してしまっています。
だから、横位置はレベル3となります。

というわけで、
いくつか事例を取り上げてマトリクス上にプロットしてみました。
私自身は、
暗渠を観察した時、
その地点地点で記録を取る際に今後使っていきたいと思っています。

事例を集めることで、
前々回に俊六さんがコメントしてくださったように、
どうも●●区はレベル2処理が多いな、とか
用水・上水は場所によらずレベル3が多いぞとか、
なにがしかの傾向が明らかになってくるのかなと思います。
周辺の都市化や自治体の関与と何か関係が現れてくるかもしれません。
また、車止めや銭湯、バスターミナルなど各種アプリケーション
についても特徴的な傾向が出てくるかもしれません。

まだ自分のこれまでのすべての事例のプロットを行っていないので、
残念ながら現時点ではそこまでは言及できません。
今後の私の課題とさせていただきますが、
プロットするまえにいろんな仮説を考えてみるのも楽しいですね。
あとで一度仮説特集もやってみようかな。
関心をお持ちの方で仮説を持ち寄って、
いっしょに討議なんかもしてみたいものですね。
また、それぞれが「私の萌えポイント」エリアをプロットしてみるのも面白いかと。

また、この先このマトリクスへプロットすることを考えていくと、
もうひとつのアイデアが浮かびあがってきます。
「いろんな暗渠・川跡をプロットするのもいいけど、
一つの川跡をいろんな地点でプロットしてみたらどうなるだろう…」

面白そうではありませんか!?
言い換えると、
川跡をスタティックにでなく、ダイナミックな連続体として捉える
ということになるのかもしれません。

というワケで、次回は
一つの川だけ選んで、その川のいろんな地点を
このマトリクスにプロットしていくいと…おお、こんなことが!
っていうお話を、新たな軸の設定とともにご紹介していきます。

ちなみに・・・・・
連載当初はこの一連のマトリクスを
「LAM=ロータス式暗渠マトリクス」と呼んでいましたが、

自分の名前を織込むという売名行為wの浅ましさにあとになって気がつき改名することにしました。
「暗渠を見るときのひとつの見方」という意味で、
ANGLE(アングル)
と呼ぶことにします。これは、
ANkyo General Level Explorer
の略でもあります(ここに並んでる英単語は予告なく変える場合もありますww)。
『この川跡を暗渠ANGLEで見ると、こんなことが言えそうだな…』
とかより多くの方に使っていただけるようになると私は幸せです。

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暗渠ハンター理論編Ⅱ その流れ、「動脈」?「静脈」?

前回は、「0 はじめに」で全体の意図を簡単にお話し、
「1 暗渠・川跡の分類 ①横軸「加工度」」
暗渠や川跡の手の加えられようによってそれを
レベル0~4に分類し、
それぞれのレベルについての定義の説明や考察を加えました。

今回はその続きをお話していきます。

1 暗渠・川跡の分類
 ②縦軸「もともとの状態」

横軸の加工度に対して、
縦軸として「もともとの状態」をプロットできるようにしてみます。

それがこちら。

Photo_2

ではご説明していきます。
当たり前ですが、川(水路)はそれぞれの距離を流れています。
ですので、同じ川であっても場所場所によって状態は違いますよね。
上流では開渠だったけど、途中で蓋暗渠になってるよ、とか。
まずこの縦軸で提案する分類は、あくまで「流れの中の、ある一つの地点」
でどういう状態なってるか、ということを捉えるのが目的です。
いわば「ある地点でのスタティックな状態」を切り取って眺めてみる、
ということです。
(上流から下流までの状態を眺めるためのマトリクスは、
新たな縦軸を使って後の章でご紹介します)

ここでは、軸の両極に
「静脈系」「動脈系」というワードを設定しました。

尾根を流して水を引く上水・用水を「動脈」に、
尾根や谷戸から高低差を自然流下で水を行き渡らせる自然河川を「静脈」に
例えるという比喩は、
「東京の水2009」のHONDAさんも使われていますし
また都市計画にも詳しい建築史家の陣内秀信氏も
著作(たしか『東京の空間人類学』(筑摩書房, 1985年/ちくま学芸文庫, 1992年)で使われているのでおなじみでしょう。
特に東京では江戸時代以降、
「遠くから高いところに人工的に水を通してきて、
要所要所で低いところに流し込むことで利水エリアを最大化」

してきました。
また元来谷頭などで湧く水からなる自然の河川も、
用水からの落ち水を人為的に流し込むことで
「広範囲の利水システム」の一部となっており、
まさに動脈と静脈がしっかり絡み合って広大な水系を形成していました。

この利水システムの中のどの場にあたるかによって
暗渠・川跡の現れ方も違ってくる、
という仮説を持ち、この軸を採用したわけです。

さてまず「静脈」なのか「動脈」なのかでこの縦軸を
大きく二分します。
すなわち「自然にできた流れ」なのか「人工的に作った流れか」
で分けます。(図の左端)
その上で、それぞれ反対方向にグラデーションが掛かるものを想定し、
図のように大きく4つに分類しています。

まずは最も「静脈」寄りである「自然河川」の状態からご説明します。
目黒川、神田川、桃園川など「谷の底を這うように流れる水路」がこれです。
いわば大静脈ですね。
高いところからの水が集まった(自然流下式の)結果として
流れを作っている水路です。
もちろん、その水の一部に「動脈」、
つまり用水からの落ち水が含まれていても問題ありません。
ただし、その場合は思いっきり軸の上端にプロットする、
というよりは気持ち動脈寄りに位置付けたいところです。
その意味では、大きな流れにはまだならないでしょうが
湧水から流れ出たばかりの水路、すなわち
空川上流の東大駒場キャンパスを流れる川などは
もう超静脈系といっていいでしょう。

次は、上とは逆に最も「動脈」寄りに位置付けられるのが「用水・上水」。
これはもうそのまんま、品川用水玉川上水などの
「尾根を流れる水路」であり、低いところに分岐する前の、
「大動脈」と言えるところです。
この大動脈から別れてすぐの、四谷大木戸・玉川上水余水吐などは
ここに分類しても差し支えないと思います。
ただし思いっきり軸の下端、というよりは
気持ち軸の上に振れるくらいの位置として考えます。

さてこれを両極とした、つまり「大静脈」と「大動脈」の間の
グラデーションエリアについては以下のように分類してみます。

「静脈系でも、ちょっと動脈寄り」には、
「自然流下式を用いる排水路」を位置付けました。
湧水を集めて自然発生的できる流れではなく、
下水道が未整備だったころから
あちこちの生活排水を低いほうに向かって流した結果の
「すこしだけ人工的」な流れをさします。
しかしこれは決して人工的な尾根水路から始まっているわけではありません。
かと言って、谷底まですでに落ちているわけでもない。
例えて言うなら、
広尾商店街の北側にある路地の水路跡(おそらくその後笄川に合流)や、
港区三田3丁目裏路地の水路跡(たぶんその後古川に合流?)などです。
これらは明治以降の古地図を当たっても田畑ではなく
もとから集落やその他の用地であり、
灌漑のために積極的に水路引っ張ってきて辺りを巡らすというよりは
「出てしまう排水をどうにかして流す」ことで出来上がった水路だと
考えられます

最後の「動脈系だけどちょっと静脈寄り」には
「田畑を巡るこまかな農業用水」を位置付けます。
尾根を走る大動脈から分岐し、農地を隈なく潤すために
人工的・計画的につくられた流れです。
しばしば自然河川と並行して何本もの流れをつくったり、
その流れ同士を横につなぐあみだくじのような流れも見られます。
なので、水源は決して尾根からの用水だけでなく、
自然河川や湧水などともところどころで合わさって流れています。
この例としては、杉並の天保新堀用水付近、
品川区の大森川原の支流(仮称)などが挙げられます。

これらの例をさきの縦軸に加えたものがこれ。

2_3 

さて、このあとはこの縦軸を、前回①でみた横軸と組み合わせ
いよいよマトリクス化をしてみましょう。

ただし、次回はシリーズの途中だった「谷戸川」の3回目を
一度だけ挟ませていただく、かもしれません。

7/5付記:いや、やっぱり次回はこの続きを、7/5の22時にアップさせていただくことにします!

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暗渠ハンター理論編Ⅰ ロータス式の「暗渠マトリクス」を作ってみた

…谷戸川シリーズの途中ですが、なんとなく6月中に一発目をアップしたかったので並走シリーズをスタートします。

0 はじめに

2年ほど暗渠や川跡のフィールドワークをしてきて
けっこうケースも溜まってきたことだし
日頃なんとなく考えていた
「フィールドワークを通して暗渠を捉える体系」みたいなことの試論を、
今回は書かせていただきます。
いろんな捉え方があると思いますが、
以下はもちろんその中の一つの案に過ぎない、
とあらかじめお断りさせていただきますね。
ですが本人的にはこれらの体系を使って東京の川跡・暗渠を分類考察し、
いつか研究成果をまとめあげたい、
と本気で考えていることもあらかじめお断りしておきますww
※ちなみに以下ここで使うマトリクスは
「ロータス式暗渠マトリクス」(略称LAM)と呼ぶことにしますw 
え?だから何だよって?ww

↑↑↑7/6付記:
「LAM」と当初は命名しましたが、
自分の名前を織込むという売名行為wの浅ましさにあとになって気がつき、改名することにしました。
「暗渠を見るときのひとつの見方」という意味で、
ANGLE(アングル)
と呼ぶことにします。
これは、ANkyo General Level Explorer
の略でもあります(ここに並んでる英単語は予告なく変える場合もありますww)。
『この川跡を暗渠ANGLEで見ると、こんなことが言えそうだな…』とか
より多くの方に使っていただけるようになると私は幸せです。

1 暗渠・川跡の分類

①横軸「加工度」による分類
まずは、対象の「加工度の大小」での分類を試みてみます。
結論から言えばこうです。
Photo

では以下ご説明します。
加工度の大小を、最もわかりやすく区切るとすれば
やはりまずは水面を隠そうとしているか・していないかでしょう。
それでまずは2分割したうえで(図の下のところ)、
さらに加工度に合わせてレベルを振り分けてみました。

レベル0 (ほぼ天然):ほとんど加工されていない天然の状態です。土手や川底なんかも土だったりして。都内では相当に貴重な状態です。
干上がってしまった水のない状態」も、本来の水面を隠そうとしていないという理由でここに入れましょう。

レベル1(加工開渠):護岸整備をしてるとか、「はしご式」加工をしているけど基本的に水面は露出させている、というのがこのレベル。暗渠を追っていて突然このような状態に出っくわすと、レベル0ほどではないけどけっこう感動しますよね。水面が見えるってやっぱうれしいです。

レベル2(蓋暗渠):さあここから右側は水面が見えない状態。ほんとうの「暗渠」となります。
ちなみに自分的にはそこに土管が埋まってなくても、川跡・水路跡であれば「形而上の暗渠」と捉えています。
さて、もっともお手軽な暗渠加工といえば、「とりあえず蓋する」ことでしょう。
だから「鉄板蓋暗渠」や「木材蓋暗渠」なんかがこのレベル。しかも不揃いの素材での蓋はレベル2でも左寄りで、素材の統一感があればあるほどレベル2の中でも右に触れてきます。つまり「コンクリ蓋暗渠」はかなり右寄りで、杉並によく見られる「美しいカーブを描くコンクリ蓋暗渠」などはレベル2の最右翼といえるでしょう。
このレベルの状態は、時にトリッキーだったり7変化したり芸術的だったりして、
非常に暗渠そのものの「鑑賞性」が高い物件が多いことが特徴です。

レベル3(埋設暗渠):さらに加工度が上がると、本格的に流水を地下に埋蔵工事する、ということになります。すなわちヒューム管等が埋められ自然流下式の下水幹線となっている状態。
車止めに囲われた舗装暗渠道」などはこのレベルの最も左側に位置づけできるでしょう。あとは「未舗装暗渠」なんかもそうですね。
で、だんだん右に行くに従って「不自然に広い歩道」とか「ほとんど一般道と見分けがつかない暗渠」が当てはまるようになります。
レベル2ほど「写真映え」はしませんが、
私的にはこの状態がいちばん「心象風景としての暗渠」「心のメタファーとしての暗渠」を感じます。見た目が派手(?)じゃない分、心で感じることが多いです。それと、暗渠の持つ「もはやだれからも有難がられない存在」としての哀しさが最も顕れる状態がこのレベルなのではないでしょうか。
きわめて内面的な衝動をくすぐる暗渠の状態であるといえます。

レベル4(過整備暗渠):これはもう加工の極み、ですね。本来の川跡を隠す・埋めるだけでなく、新たな存在感を作り上げている状態。すなわち「緑道」です。
北沢川緑道など、世田谷区によく見られる「暗渠の上の再生せせらぎ」等は、このレベルの最右翼でしょう。ここは好き嫌いの分かれるところかもしれません。
ですが、暗渠ファンでない一般の方々には「きれいな景色ね♪」としきりに有難がられる存在でもあるでしょう。あるいは、このような状態に出会うことがきっかけになって「なんでここにこんな道やせせらぎがあるんだろう?」と暗渠道に入り込む勧誘装置としての機能も期待できそうです。

また、暗渠につきものの

橋跡などの遺構
湧水
車止め
銭湯、クリーニング店、染物店、豆腐店
バスターミナル
・学校や団地

などなど数々の「暗渠サイン」は、
それぞれのレベルの川跡に付帯する「アプリケーション」
として捉え、後々「どのレベルにどのアプリケーションが頻出するか」
などの考察を行っていきたいと思います。

さあ、あなたが今日訪れた川跡は、
この横軸のどこに位置づけられるでしょう?そしてそのとき、どんなことを感じましたでしょう?
長くなってしまったので以下はやむなく連載にしますね。
以下は、こんな展開になります。

1 暗渠・川跡の分類
 ①横軸「加工度」…
これが今回。次回からは、
 ②縦軸「もともとの状態」…もともとの水路の状態を「静脈系」「動脈系」として縦軸にとる手法を提示します。
 ③縦横マトリクスによる物件の分類…①の横軸と②の縦軸を組み合わせ、暗渠や川跡を分類してみることを提案します。

2 暗渠・川跡の全体把握
 …
①の横軸に、こんどは「上流」「下流」の縦軸、つまりいわば「タイムライン」的な軸を足すことで、「その川跡が上流から下流までどんな変化を辿っているか」を表すことができます。その手法と今後の「川跡の類型化」の可能性をご紹介します。
またあくまで構想ですが、この横軸・縦軸にもう一本奥行の軸を加えて3次元マトリクスにすることにより、過去と今の時間軸で川跡の状態を把握できるモデルもお話してみたいと思っております。




ということで、とびとびになると思いますが、
何度かこのシリーズ続けますね!

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暗渠ハンター 「失われた川の魂」としての暗渠

先日、田原光泰さん著の『「春の小川」はなぜ消えたか 渋谷川にみる都市河川の歴史』(之潮)
を読みました。
これは面白かった。

著者の方は白根記念渋谷区郷土博物館の学芸員さん。
さすが、深い見識と郷土愛にも満ちてます。

特に前半の、渋谷川上流の状況を江戸以降の
都市開発の歴史と重ねて説明してる章が読み応えがありました。
田原さんは、
川や水路が余儀なく変化させられるその要因を
農地から宅地への用途変更に伴う
・周辺の道路整備
・排水路整備
という観点から説明されています。

暗渠を歩いていてよく、
湧水ポイント(川の水源)よりさらに上に
(人工の用水や上水と接続するわけでもないのに)
水路跡が見られるところがありますが
これは公共下水道が未整備だったころの、
宅地開発に伴う排水路整備の仕業だったりするのよ、とか
なるほどーと思いました。

それと、明治以降の都市づくりでけっこう水路は付け替えられていて、
必ずしも昔の自然河川の跡がそのまま暗渠になっているわけではない、
ということを改めて認識させられました。

いや、うすうすわかってはいたのですが、
「暗渠ハンター(中級)」を自ら名乗る私としては、
ときどき水路を辿りながら
①「(暗渠になってなくても)水路跡を追うこと」
に萌えなのか、
②「(水路跡には関係なく)とにかく暗渠を追うこと」
に萌えなのか、よくわからなくなることが多いのです。
いや、基本的にはどっちも萌えなので、
あえて明解に区分する必要もなかったからそのままにして
放っておいたのですがw
しかしせっかくだから一旦自分の中で整理してみました。

「暗渠ハンター」という肩書きwからすると
②が主ミッションのようですが、
仮に①のような状況であっても(つまり地下に実際の暗渠がなかったとしても)
そこには「土地の履歴としての川」があるはずだし、
それは「形而上の暗渠」なのだと思うんです。
違う言葉でいえば、川跡にいつまでも残っている川の魂、みたいな。

がらんとした真っ暗な地下の管をごうごうと、
あるいは静かに流れていく暗渠にもなぜか惹かれますし、
実際にそんな管なんかなくても、
どの川跡にもたぶん「流れの記憶」(=形而上の暗渠)
のようなものがあると思うんです。それにも強く惹かれます。

だから「暗渠ハンター」は①だって追うのだ。
っていうか①のほうがより基本的なミッションなんだろうな。

その他にも興味深いこと満載の、とてもいい本でした。

Book 春の小川はなぜ消えたか 渋谷川にみる都市河川の歴史 (フィールド・スタディ文庫6)

著者:田原光泰
販売元:之潮
Amazon.co.jpで詳細を確認する

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暗渠ハンター たまにはふりかえってみる

去年の6月くらいでしたか、急に暗渠に目覚めて書き出してから、一体どのくらいの川をとりあげたのかなーと振り返りモードに入りましてw。
ちょっと自分の中でいちど棚卸ししてみて今後の課題や傾向と対策みたいなのものを考えてみたくなりました。会社ももうすぐ年度末だし(って関係ないかw)

というわけで、今日はこれまで「暗渠ハンター」シリーズで取り上げた川・暗渠を整理してみました。みなさまに読んでいただこうというよりは、自分のために書く備忘録のような話で大変恐縮ではありますが・・・。

それと、整理していて改めて思ったのですが、暗渠や川のことをいつもいろいろ教えてくださるみなさま・いつも訪問いただいて読んでくださるみなさまに、改めて深い感謝を申し上げます。どうもありがとうございます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

☆記事をご覧いただける場合は、左枠の「カテゴリー」同タイトルからおいでください。
☆「カテゴリー」内の記事順番と下記の記事順番はたぶん違っています(見づらくてゴメンナサイ;;;)。
☆支流の名前はかなりテキトーです。仮称として勝手に呼んでいるものさえあります(これまたゴメンナサイ;;;)。
☆リストアップされていても川の一部だけ、という記事があります。
☆数字は、「東京Peeling!」が勝手につけた整理のための「lotus No.」です。

2011・・・渋谷川水系
 ●渋谷川
    ・青山病院跡池
 ●笄川
 ●いもり川
 ●代々木川
 ●玉名川
 ●宇田川
   ・神泉交差点からの支流
 ●河骨川
 ●三田用水鉢山分水

2021・・・目黒川水系
  ●烏山川
   ・菅刈支流
   ・中堰橋支流

   ・松陰神社前支流
   ・まんだらけ支流

 ●北沢川
   ・東松原支流
   ・羽根木支流
   ・羽根木支流のおしくらマンホール
   ・溝が谷支流 すばる座状マンホール
   ・溝が谷支流 淡島湯横暗渠
 ●蛇崩川
   ・桜支流
   ・駒沢緑泉公園支流
   ・祐天寺支流
 ●空川
 ●谷戸前川
 ●羅漢寺川
   ・六畝川

2031・・・立会川・内川水系
 ●内川
 ●立会川
   ・大径マンホール
   ・原町支流とおしくらマンホール

2041・・・呑川水系
 ●呑川
   ・深沢支流
   ・深沢支流・都立園芸高校付近から
   ・駒沢川支流
   ・柿の木坂支流
   ・清水窪支流から洗足池

   ・池上用水
 ●九品仏川
   ・逆川につながる用水路みたいな暗渠

2051・・・多摩川水系
 ●谷沢川
   ・宇山の蓋暗渠支流
   ・千歳通りからの支流  
   ・満願寺支流
   ・逆川
 ●谷川・丸子川
   ・高島屋SC支流

2060・・・用水・上水など水路系
 ●玉川上水
   ・羽村取水口
   ・田村分水
   ・代田橋開渠
 ●品川用水

2070・・・その他水系
 (神田川)
 ●桃園川
   ・高円寺ガード下アンキュチュアリ支流
 ●水窪川(音羽川)
 ●鮫河
 ●藍染川
   ・根津神社の池
   ・へび道
 ●太刀洗川
 ●野火止用水in志木高校
 ●荒木町策の池

2080・・・暗渠・川筋でひろったかけら(その他関連トピック)
 ●暗渠とバスターミナル
 ●品川用水沿いの銭湯
 ●羽村まいまいず井戸
 ●世田谷代田の井戸
 ●ふれあい下水道管
 ●水道歴史館
 ●六義園の池
 ●五反田氷川神社の湧水

ふむふむ、なるほどこんなもんかと・・・。

ちなみに、私は暗渠現場を廻るときはポケット版のちいさな地図「シティサイクリングマップル東京」(粗っぽくて見づらいけど、高低が色分けしてあるのでべんり)を持って歩きます。

Imgp6136
予め赤い点線で主な川筋を書き込んでおき、実際辿ったら実線で大雑把になぞっていく、という使い方。現場のメモとかなんかもここに気にせずがりがり書き込んで、まるでノート替わりです。
でもこれだと流路がよく復習できないので、家に帰ってから大判で細かい道まで載っている道路地図に川筋を書き込んでいっています。

この持ち歩き地図を眺めてみると、まだまだ点線だらけ・・・。修行足らんですねw
それに、手帳に書いた「すぐに行きたい暗渠リスト」も項目は増えるばかり・・・。
さーて、暖かくなってきたことだし、がんがん行ってみよー!

・・・っつか「東京Peeling!」のコンテンツは他にも工場萌えとか橋裏萌えとかあるんですが、暗渠ネタの比重が高すぎですねwww たまにはそっちも書いてみまーす!

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