暗渠・川跡の見方捉え方<ANGLE>について【まとめ版】
はじめに
ある日を境に突然「暗渠」に夢中になり、ここ2年ほど都内を中心とした暗渠や川跡のフィールドワークを重ねてきました。訪れた暗渠・川跡はどれも個性的で変化に富み、それだけで十分私の「暗渠心」が満たされる思いでいたのですが、巡るごとに「これらフィールドワークを通して暗渠を体系的に捉える枠組み」のようなものを拵えることができないか、と考えるようになりました。今回はその試論として私なりの「暗渠・川跡の分類」と「暗渠・川跡の全体記述」のフレームワークについて述べさせていただきます。
ちなみにこのフレームワークを、私は「暗渠を見るときのひとつの見方」という意味で、ANGLE(アングル)と呼ぶことにしました。半分遊びの語呂合わせとなりますが、これは「ANkyo General Level Explorer」 の略でもあります。
第1章 暗渠・川跡の分類
ではまず、縦軸と横軸、二つの軸を使って暗渠・川跡を分類していく方法についてご説明していきます。
※2015.1.18 注:現在、以下第1章の横軸分類については見直し中です。2015年8月くらいまでには何らかの形で修正含めて改めて発表できるかと思います。それまでは、どうも中途半端なところがある説ですがどうぞご了承ください。
①横軸「加工度」による分類
一つ目の軸として、<図1>のように暗渠・川跡の「加工度の大小」を用いてみます。
<図1>
暗渠・川跡を「加工度」で分類していく上でまず明確に2つに分けるとすれば、やはり「水面を隠そうとしているか・していないか」でしょう。そう大別したうえで、さらに加工度のレベルを0から4まで5段階に振り分けてみました。
レベル0 (加工度は最も低く、ほぼ天然の状態の開渠):ほとんど加工されていない、 つまり暗渠でも川跡でもない「川」の状態です。あまり工事された形跡がなく土手や川底にも土が見えているなどの流れで、すでに都内では希少なポイントとなっています。
また、すでに水が枯れてしまって「水のない川」状態であり、かつ護岸工事や補強工事などもほとんどされていない、所謂「干上がったまま放ったらかし」である場所も、「積極的に加工されているわけではない」という考え方でこのレベル0とします。
レベル1(加工されている開渠):護岸整備がなされている・水路上部に梯子状の補強が施されている(暗渠愛好家の間でよく「はしご式開渠」などと呼ばれるもの)など、ある程度の加工はされているが基本的に水面を隠そうとはしていない(開渠)状態がこのレベル1です。
水面が見えるので基本的には「川」または「ドブ」、なのですが、すでに流れる水がなくて「川跡化」している場所も多く見られます。このような場所は世田谷区の住宅街の中などでもよく出会いますが、おそらく下水道管整備の進行に反比例して流れる水量が減りまた滞り、それに伴う臭気の問題や安全性の問題などから年々蓋をされて暗渠と変わっていく(レベル2へと移行していく)ところが多いようです。
レベル2(蓋がかけられた暗渠):ここから右側は水面が隠されている状態となります。その川跡の下に合流管・雨水管などの「流れ」がある場合には一般に「暗渠」と呼ばれますが、私は仮にそこに土管が埋まっていなくても、もともと川や水路であったのならばそれは「今は見えないけれど、経た時間が蓋となりその流れを見えなくさせている」と捉えて、多少情緒的ですが「暗渠」と呼ぶことにしています。その「暗渠」の中でも加工度が最も低めな「開渠に蓋をかけて暗渠にしたもの」がこのレベル2です。
またこのレベル2は、あり合わせの木材や鉄板などを被せただけのものや工業規格化されたコンクリート蓋を連ねて塞ぐものなど、多くのタイプが見られます。レベル2の中でも前者であれば左寄り、後者ならば右寄りと、さらに細かく分類することもできるでしょう。
蓋暗渠はその場所によって非常に多くのバリエーションが楽しめ、ある所ではため息が出るほど美しい加工が施されていたり、ある所ではそのおざなり加減に思わず失笑してしまったりと、大変に表情が豊かです。それ故暗渠愛好者の関心も非常に高く、暗渠・川筋の中でもかなり「鑑賞性」の高い状態と言えます。
レベル3(埋設され道となっている暗渠):蓋をするだけの暗渠からさらに加工度が上がると、流れを本格的に地下に埋設する、ということになります。土管等が地下に埋められ路面はアスファルトなどで覆われて、多くは細く暗い路地のような状態となっています。さらに加工が進むほどパッと見では一般の歩道や車道と識別しづらくなります。また、すぐ下を土管が通っているため地盤自体が過剰な重さに耐えられないようになっていますので、重量のあるクルマなどの進入を防ぐための「車止め」を道の両端に設置するケースが多く見られるのもこのレベルの特徴です。
レベル2より「普通の道」に近いため「写真映え」こそしないのですが、暗渠独特の雰囲気・趣が味わえる場所が多いようです。
レベル4(過剰に整備された暗渠):加工の極みの状態です。本来の川跡を隠す・埋めるだけでなく、さらに緑道など「新たな存在感」を作り上げている状態です。中でも細長い公園に転用されているケースや、世田谷区北沢川緑道などに見られる「暗渠の上の再生せせらぎ」が設置されているケースはこのレベルの最右端に位置付けることができます。
そのあまりの加工度の高さゆえ暗渠愛好者の中では好き嫌いの分かれるところですが、多くの一般の方々にとっては「気持ちよく整えられた空間」であり、地域社会への貢献度は最も高い状態であると思われます。
②縦軸「もともとの状態」による分類
※2011.8.16追記:コメント欄でHoliveさんから頂いたアイデアにより、軸の上下は「上が動脈・下が静脈」とするのが直観的にわかりやすいため以下の原稿を修正させていただきました。
もう一つの軸、縦軸には「もともとの状態」をプロットして分類を試みます。<図2>をご覧ください。
<図2>
まずは縦軸を上下二つに割り、両端を「動脈系」「静脈系」と設定します。これは、尾根を流して水を引く上水・用水を「動脈」に、尾根や谷戸から高低差によって水が流れ、やがては海へと繋がる自然河川を「静脈」に例える比喩です。つまり水をどこからか引いてきてそれを細分化しながら街の隅々まで水を届ける人工のネットワークを「動脈系」、あちこちで点々と湧き上がる水が集まりやがて大きな流れになっていくという自然流下のネットワークを「静脈系」としました。
玉川上水に代表されるように江戸時代以降の東京では、「尾根伝いに遠くから人工的に水を通してきて、要所要所で低いところめがけて分配する」ことで利水エリアを最大化してきました。また元来湧水からなる自然の河川も、用水からの落ち水を人為的に流し込むことで「広範囲の利水システム」の一部に組み込まれており、まさに動脈と静脈がしっかり絡み合って広大な水系が形成されていました。この利水システムネットワークの中のどの場にあたるかによって暗渠・川跡の見え方・現れ方も違ってくるのでは、という前提からこの軸を採用しています。
「静脈」なのか「動脈」なのかという大別は、すなわち「自然にできた流れ」なのか「人工的に作った流れか」と殆ど同義です。この大分類をした上で、それぞれのより中間的(真ん中寄り)な状態を想定し、図のように大きく4つに分けました。まずは上下の両極から、そしてより中間的な状態へと順を追って場所を例示しながらご説明していきます。<図3参照>
<図3>
「自然河川」:最も「静脈」寄り(下がわ)に位置する状態です。目黒川、神田川、桃園川など「谷を伝って自然流下で流れる水路」がこれにあたり、ご存知のように都内にも多数存在しています。高いところに発し低いところに水が集まって流れを作る水路であり、もちろんその水の一部に「動脈」、つまり用水からの落ち水が含まれていても問題はありません。ただし、その場合は縦軸の最下端にというよりは気持ち動脈寄りに位置付けたいところです。一方、大きな流れを形成する前の、湧水から流れ出たばかりの水路すなわち空川上流の東大駒場キャンパス内の流れなどは、最も静脈寄りに位置付けられると思います。
「用水・上水」:反対に、最も「動脈」寄り(上のほう)に位置付けられるのが、その名が示す通り玉川上水、品川用水などの「尾根を流れる水路」です。これらは江戸のあちこちに分岐・拡散していく大元の「大動脈」とも言えるところです。またこの動脈から別れてすぐの、四谷大木戸・玉川上水余水吐などもここに分類しても差し支えないと思いますが、軸の最上端、というよりは気持ち軸の下に振れるくらいの位置として考えます。
さてこれを両極とした、つまり「静脈」と「動脈」の間のグラデーションエリアについては以下のように分類してみます。
「自然流下式を用いる排水路」:「静脈系でも、ちょっと動脈寄り」の位置です。湧水を集めて自然発生的にできる流れではなく、下水道が未整備だった頃にあちこちの生活排水を低いほうへと流した結果にできた、「少しだけ人工的」な流れをさします。しかしこれは決して動脈である「用水」から始まっているわけではありません。例えば広尾商店街の北側にある路地の水路跡(おそらくその後笄川に合流)や、港区三田3丁目裏路地の水路跡(おそらくその後古川に合流)などがこれにあたります。 これらは、明治以降の古地図を当たっても集落等農耕地以外の用地であり、ここに灌漑のために積極的に水を引いて水路を張り巡らせたとは考えにくいエリアです。むしろ「そこから出てしまう排水をどうにかして流す」ことで出来上がった水路だと考えられます。
「田畑を巡るこまかな用水」:「動脈系でも、ちょっと静脈寄り」である」ここは、尾根を走る大動脈から分岐し、農地を隈なく潤すために人工的・計画的に作られた流れです。しばしば自然河川と並行して何本もの流れを作ったり、その流れ同士をあみだくじのように繋いでいる状態も見られます。また水源は決して尾根からの用水だけでなく、自然河川や湧水などとも所々で合わさって流れています。この例としては、杉並の天保新堀用水付近、品川区の大森川・原の出石支流(仮称)などが挙げられます。
③ 加工度×もともとの状態 二つの軸で物件をとらえてみる
ここまでで述べてきた縦軸・縦軸を組み合わせ、単純なマトリクスにしたものが<図4>です。そしてここに、②でご紹介した事例をプロットしてみたものが<図5>です。これを、左下の象限から象限毎にもういちど事例とともにご説明していきます。
<図4>
<図5>
【事例1】:空川(東大駒場キャンパスから流れる上流箇所)
写真は京王井の頭線・駒場東大前駅近く・東大駒場キャンパス内を流れる空川の上流地点です。ここは自然にできた、湧水からの流れなので縦軸ではかなり下のほうに位置付けられます。そして、ご覧のとおり護岸加工も控えめに清らかな流れを露わにしていますので、横軸はレベル0となります。
【事例2】:目黒川
写真は北沢川と烏山川が合流した後、国道246号線(玉川通り)を少々南に越えた辺りの目黒川で、自然河川です。しかし合流式下水道との接続により大雨時は「排水路」ともなるので、【事例1】の空川よりちょっと上に位置付けます。また、三方しっかりしたコンクリート構造に囲まれた開渠となっていますので横軸はレベル1の加工度となります。
【事例3】:広尾商店街北の水路
続いて右下の象限に移動します。写真は東京メトロ・広尾駅近くの広尾商店街北側エリアに見られる水路跡です。②で述べた通りおそらくここは純粋な意味での自然河川ではなく、また明らかな灌漑用の導水でもなく、生活排水を起点とした「自然に排水をするための」水路だと考えられますので、縦位置は下半分の真ん中寄りです。そして横軸の加工度は、蓋かけではなく地中に管が埋められてしまっている状態であるためレベル3の位置となります。
【事例4】:桃園川
桃園川は杉並区天沼近辺からの水を水源にいくつかの支流を集めて神田川に流れる自然河川で、写真はその桃園川が神田川に合流する手前、中野区内の緑道部分です。かつて、この上流である杉並区辺りでは田んぼへの水の供給のための多くの用水路が作られていましたが、本流が太く明確であり、またこの写真の地点ではそれら多くの周辺用水路をも含めて集めた谷底の流れである、ということから、縦軸の下半分に位置づけます。一方の横軸ですが、桃園川の上流や支流では蓋暗渠がたくさん見られるものの、この地点ではかなり作りこまれている緑道である、ということからレベル4と位置付けます。
【事例5】:玉川上水の上流
左上の象限に移ります。写真は玉川上水の大元、羽村取水口からすこし下った田村酒造場付近です。ちょっと見ればまるで自然河川のような風情で、加工度は非常に低く横軸で左端に位置付けられます。しかしこの水路自体は明らかな意図(都市への水の供給)を以って人工で作られていますので、縦軸では一番上に位置づけます。
【事例6】:玉川上水 四谷大木戸からの余水吐
写真は【事例5】玉川上水の最末端ともいえるところです。四谷大木戸の玉川上水余水吐と呼ばれる、昔玉川上水の余水を渋谷川に流していた新宿御苑の東にある川跡です。上水からの水路なので縦軸の上のほうに位置づけられますが、用水本流から分かれて渋谷川として「自然流下が始まっている」という理由で【事例5】よりは気持ち下にプロットしたいところです。また、今は干上がってしまったとはいえ川面をなにかで覆い隠そう、という意図は比較的弱そうなので横軸ではレベル0とレベル1の中間辺りとします。
【事例7】:杉並の天保新堀用水
最後の右上の象限に参ります。写真は杉並区の善福寺川と桃園川との間に掘られた、付近の田んぼを潤すための用水路で、現在はコンクリート蓋が掛けられた暗渠となっています。当然縦軸では上半分の位置となりますが、自然河川同士を結んで掘られたという事情で真ん中に近い位置としました。そして横軸ですが、この蓋暗渠は統一された蓋素材を使って美しくやわらかな曲線を描く大変「凝った」仕上がりになっていますので、レベル2の中でもぐっと右寄りに位置づけたいところです。
【事例8】:品川用水
写真は目黒区林試の森公園付近の品川用水跡です。品川用水は玉川用水と並ぶ江戸時代からの主要用水の一つですので、縦位置は一番上とします。この写真の地点でもそうですが、現在品川用水はそのほとんどが道路と同化してしまっていて、事前に知っていなければまず水路跡だとは気がつかれません。横位置はレベル3となります。
以上、いくつか事例を取り上げて「ANGLE」のマトリクス上にプロットしてみました。まだまだたくさんの事例集めが必要ですが、それらの積み重ねによって今後新しい発見ができるかもしれない、と私自身楽しみにしています。もしかすると、動脈・静脈系の違いで加工度にある傾向が出てくるかもしれませんし、または行政区による特徴も見られるかもしれません。この「ANGLE」で事例を整理していくことと並行しながらあれこれ仮説を思い巡らすのもまた一興です。
第2章 暗渠・川跡の全体把握
さて、前章でお話してきた「ANGLE」は、「暗渠・川跡のある一つの地点を取り上げて」マトリクスにプロットしました。しかし川はある程度の距離をいろいろな状態に遷り変りながら流れていくものです。ということはつまり、同じ川でも取り上げる場所によってプロットされる位置が変わってくるはずです。では、ある川の上流から下流までの状態の変化を連続してプロットするとどんなことが起こるでしょう。前章での「ANGLE」では、川の全体からある場所を切り取って捉えるある意味スタティックな試みでしたが、この章ではもうひとつの「ANGLE」でそんな川の全体像をダイナミックに捉える試みをしていきます。
①新たな縦軸の設定
<図6>のように、横軸の「加工度」はそのままにし縦軸を「上流」と「下流」に設定して新たなマトリクスを作ります。
<図6>
こうすると縦軸は川の流れのタイムラインというべきものとなり、川の流れが進むにしたがって見え方がどう変化していくのかを一目瞭然化するマトリクスが出来上がります。この縦軸の両端は川の長さによって「0~38km」などと絶対距離で当てはめてもいいのですが、川の「状態」の遷移状況を端的に掴んだり川同士の比較をしたりすることを考えると、「最上流:0」~「最下流:100」とする相対距離で設定した方がいいでしょう。いちいち実際の距離を計測しながら暗渠歩きをするのもちょっと面倒ですし、だいたいの目分量で「どの程度上流(下流)なのか」が表せれば十分だと思います。
②川の全体像を記述する事例
では、縦軸を変更した新たなこの「ANGLE」で川を捉えてみましょう。
【事例1】:谷戸川のケース
<図7>
谷戸川は、世田谷区の千歳台から砧を流れ、砧公園を抜けて岡本静嘉堂付近で丸子川と合流する自然河川です。ここでは、千歳台の最上流地点~砧公園に入る手前までを「全体」として縦軸に取り、川の遷移を記していきます。
縦軸最上部の最上流地点つまり水源は、諸説あるものの現在の環八西側・成城警察署付近と言われています。しかしこの近辺はまったく道路と同化してしまっており水路は見る影もありません。よって横軸の加工度はレベル3となります。
その後、環八を東に渡ると未舗装の枯れた水路跡が現れます。すなわちいきなり加工度は左に寄ってレベル0へ。途中で一部細い舗装道路になる箇所も見られますが、ここでは大まかな傾向を例示するため思い切って割愛します。
そして再び環八を西に越えると、笠森公園を通過する所で再び道路と同化します。つまりまた右へと振れます。笠森公園を抜け千歳台1丁目から小田急線を南にくぐるまで蓋暗渠区間が現れレベル2となります。
そして山野小学校の横から長い区間、はしご式開渠が続きますのでレベル1となります。この途中いくつかの支流が合流しますが、マトリクスを簡略化するためそれらの記述は今回省略します。この開渠は世田谷通りを越えるまで続き、世田谷通りの先は幅広の蓋暗渠となり、横根橋を越えたところで再びはしご式開渠へと変わっていきます。
そしてその後谷戸川は砧公園の敷地内へと入っていきます。これら加工度の遷移を上流・下流の縦軸に合わせてプロットしていくと、上図のような「ANGLE」が描けます。これを見てみるとずいぶん加工度の遷移が激しく、左に右にとぶれる軌跡が谷戸川の「変化に富んだ表情」を表しています。
【事例2】:目黒川のケース
次は、目黒川をプロットしてみましょう。上流となる北沢川、烏山川の二本が合流し、「目黒川」という名前になる池尻付近の地点をスタートとし、ゴールは品川の東京湾に注ぐ河口とします。【事例1】同様、ここでは単純化するため支流はあえてプロットしません。
<図8>
スタートから国道246号線(玉川通り)を越えるまでは、本来の目黒川の水ではなく落合処理場から導水した水を使った「フェイクせせらぎ」まで作られている、非常に加工度の高い緑道が続きます。横軸は完全に右に振り切っている状態です。
以降246号線を越えると切り立った護岸とともに水面があらわになり、開渠となります。したがって左に移動しレベル1となります。但し、このような都市の大河川は大概その横に大きな下水道幹線が別に作られており、この目黒川の水面もレベル0の川で見られる「ほんとうの水面」ではありません。よってこの場所をレベル0とするか、「本当の水面を隠している、相当作りこんだ状態」と捉えレベル4に位置づけるかは判断の分かれ目です。厳密に言えばレベル4としたほうがいいのかも知れませんが、ここまで流れが立派になり、また大雨の時は自然流下によってたくさんの雨水がこの谷底の川に集まってくることを考えると、これは「手を加えられてはいるが、新たな川としての人生(?)が始まっている」と言っていいのではないか、という理由でレベル0と位置づけることにします。
その後目黒川は東京湾に流れ込むまで、ずっとこのよう状態が続いていきます。
これを「ANGLE」の軌跡で見てみると、【事例1】に比べて非常に状態が安定的であることがわかります。東京の「大河川」の特に下流では、おそらくほとんどがこのような安定的なタイムラインを示すものと思いますが、すでにこれらは単なる河川ではなく、「都心における水害対策システム」の一部とされていることもその理由の一つなのかもしれません。
【付録の仮想事例X】:エクセルなどを使った詳細な記述
また「一つの川・支流をとことん突き詰めたい」という場合には、こと細かに状態遷移を書き込んでいくことが必要になってきます。このような場合は、エクセル等表計算ソフトを使うと便利です。ソフトを使って<表1>のようなテーブルを作成し、数値を入力した後ソフトの自動グラフ作成機能で「散布図」グラフ化すると、<図9>のように一気に詳細なタイムラインを作ることができます。
<表1>
<図9>
この例では7地点しか入力していませんが、地点を増やしてその分入力行を増やしていけば、相当にこまかな状態遷移がタイムラインに現れることになります。
【付録の仮想事例Y】:複数の川の比較
応用としてもう一つの仮想事例をご紹介します。この縦軸をタイムラインにした「ANGLE」を使うと、いくつかの川の遷移を比較することができます。<図10>ではA川、B川、C川の三つを同じ「ANGLE」に載せて記述してみました。
<図10>
このようにして、同じ川の支流どうしを比べたり、同じ自治体の遷移の状態を比べたり、あるいは「暗渠の状態遷移の基本パターン」を見つけたりと、同一の「ANGLE」に載せてみることで様々な比較が可能になります。
おわりに
以上2種類の「ANGLE」という手法を使った「暗渠・川跡の眺め方」をご提案してきました。今回述べたものが基本手法となりますが、今後はこれに「アプリケーション」を組み込んで記述する、という方法論を検討していきたいと思っています。
暗渠・川跡には、俗に「暗渠サイン」とも呼ばれる特徴的な付帯物・近隣施設などがあります。「親柱」など橋の遺構などももちろんですが、前出の「車止め」や、下水を使って大量な排水を行う「銭湯、クリーニング・染物店、プール」など、そして建設にはある程度まとまった土地の確保が必要となったであろう「学校・団地・バスターミナル」などがこれに当たります。これらの「暗渠サイン」を、「暗渠・川跡に取り付けられているアプリケーション」であると捉え、「ANGLE」に現れる川そのもののプロフィールに重ねて記述していくことができます。またこうすることで、各アプリケーションの出現の傾向も整理することができる、と考えています。こちらは改めてご報告させていただきます。
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
lotusさん!
これ、もの凄く面白いですよ!!
私も以前から、なんとなく「自然河川と人工河川の境目ってあやふやだよな‥‥流路改修とか、どう思えばいいんだろう」などと常々思っていたので興味深々。続きが気になります。
おこがましくも、なんだか一緒になって研究している気分になってしまいます。
そこで。
人様が論じているところにこういったものを書くのってどうなんだろうと思いましたが、ちょっぴり提案ですw
≪②縦軸「もともとの状態」による分類≫に関して。
「上が静脈、下が動脈」であるコトに大きな理由が無ければ、上下を入れ替えてみてはどうでしょう?
…と言うのも、「静脈か動脈か」の判断基準に標高という部分が絡むので、ぱっと見で感じ取りやすいと思うんですよね。
だって、谷底の暗渠から高台の上水を見上げるじゃないですかw
それから、縦軸を「もともとの状態」に、横軸を距離にした図っていうのは無意味でしょうか?
‥‥たとえば、横軸を距離(左端が源流、右端が河口=海)に、縦軸を標高に据えてみると、当然、低きへ流れる水ですから右下がりの線ができます。
→http://firestorage.jp/download/b7bd4122642f16ae02630a67f9556d133b20db04
河川勾配のそのものですね。
この図を少し変形して、「自然河川の標高に対する割合(%)」を縦軸に据えてみました。
すんごーく大雑把ですが、こんな感じになると思います。
→http://firestorage.jp/download/3b14a1cc8fcb6855e18f2ee9e3756f90f36f8428
こうなると、縦軸の数値がそのまま「上水度」になると思うんですよ。
谷底の自然河川に対して、どれだけ高い位置に水を通しているのか‥‥「上水度」は、言い換えると「動脈度」になりませんか?
ちなみに、この「標高差」を「差」で表すのか「割合」で表すのか。私の感覚では割合で見るほうが良さそうな気がします。
この表現方法の問題点は「天保新堀用水」のような胎内堀りの扱いですよね。
あと、ちらっと3つ目の軸を‥‥と、おっしゃってましたね。
新たに観点が増えるたびに軸も増やせねばなりませんが、増やせる軸があと1つしかありません。、
なので、軸でしか表せない観点が新たに生じた時のために最後の軸は温存しておき、例えば加工度を線の色で表すのはどうでしょうか?
加工度が高いと赤寄りに、加工度が低いと青寄りに‥‥みたいな。
あるいは、色以外にも線のカタチ(破線、波線、太さetc)でも表現できそうだなぁとも思います。あ、線の太さはまんま川幅でもいいかもしれませんw
仮に、縦軸で「もともとの状態」を、横軸で距離を、色で加工度を表したら、全部を平面に表現できたりしませんかね?
そんなこんなで。
lotusさんのおかげで、「趣味の暗渠」から学問になってきているのが嬉しくてたまりません。
個々人のフィールドワークの成果もぼちぼち出揃ってきているので、
それを個々人のまま終わらせることなく、皆で体系的に組み上げていけば、
あるいは本当に「暗渠学」なる学問が成立するかもしれません‥‥などと言う、妄想w
応援してます!
Holive
投稿: Holive | 2011年8月13日 (土) 11時33分
Holiveさん
捉え方の一つの「共通言語」ができるといいなあという思いで書かせていただいたので、
すごくうれしいコメントを頂戴しました。ご提案もすっごく嬉しいです!
ANGLEは誰のものでもないので、ぜひその人なりにいじって使いやすくわかりやすく進化させていただけるとありがたいと思っています。(そういう意味で、図らずも「いっしょに研究」というお言葉を頂いたのがとても嬉しいんです)
さらにHoliveさんの新しい考え方を教えていただいて、私、とても有難い思いです。
1 まずは、動脈静脈の上下逆転について。
これはごもっともです。
直観的に逆のほうが全然わかりやすいですね!今後は逆に直して運用させていただきます。
2 縦軸を「もともとの状態」に、横軸を距離にした図
これは思いもよりませんでした!「1」の逆転もここにつながってくるんですね!
すごく面白いモデルだと思います!リンク先を拝見して少々興奮しています。
3 「軸」以外の分類記述
これも目から鱗です、なるほどー。当初はマッピングした点の大きさで「なんらかのボリュームを現す」ことはできないかな、
とは思いましたが、もっともっとやり方はあるんですねー!
斬新なアイデアをありがとうござます!
さて、ちょっと整理しますと、
ANGLEの基本軸としていま4つが挙げられています。
Ⅰ 加工度の軸
Ⅱ 動脈・静脈の軸(成り立ちの軸)
Ⅲ 標高軸(今回Holiveさんのご提案される「上水度」軸)
Ⅳ 距離軸
これを適宜組み合わせ、(または軸以外の識別手法も活用して)暗渠を記述していく、と。
あーなんかすごく進歩した気がします!
私はもともと「加工度」に主に興味を惹かれれていたので、
やはりこれまで「Ⅰ」軸にばかり自然と固執してしまっていた気がします。
Holiveさんのご意見に感謝。
アイデアももちろんそうですが、大きな勇気を頂いた思いです。
投稿: lotus62 | 2011年8月14日 (日) 08時27分
Holiveさん
さっそく「動脈静脈」の上下位置を修正させていただきました!
どうもありがとうございます。
投稿: lotus62 | 2011年8月15日 (月) 10時29分
しつこく一人でメモ代わりに書き続けますw
Holiveさんの「標高軸」はやっぱ面白いなあ。
これは、ある地点を記述するのでなくて、支流含めて流れのほんとの全体像を記述するのにすごく便利だなあ。
「目黒川水系」とか「渋谷川水系」とかそのくらいのスケールの。
何度も拝見しては考えてみましたが、
そんなふうに水系ごと記述したり他の水系と比べたりするときには、
「自然河川の標高に対する割合(%)」よりもその前に提示された絶対値バージョンのほうが、
直感的に解りやすいような気もしてきました。
投稿: lotus62 | 2011年8月16日 (火) 09時11分