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暗渠ハンター<脱構築版> Far east man。

【前口上】
かつて取り上げた場所(や、書こうと思って放っておいたと場所)も、語り口やスタイル次第でリサイクルできるのでは? と思ったわけでもないですが、他所で「暗渠なんて殆ど興味ない人たちに向けて暗渠や川跡のことを書いてみたらどんな反応が来るか」という実験のために書いた文章を、暗渠ハンターの年末年始特別企画として、不連続で載せていくことにします。

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「Far east man」という曲を初めて聞いたのは1981年、その春リリースの大村憲司のソロアルバム「春がいっぱい」で。
ゆったりしたテンポにのっかって気怠い響きのコードが繰り出される渋い歌だ。
YMOのサポートメンバーとしての大村さんに興味があって買ったアルバムだったので、はじめは他の曲に埋もれて気にも留めなかった。けれどアルバムを聴きこむほどにじんわりと好きになる、そんなタイプの曲がこれだった。以来ずっと私の中でのフェイバリット・ミュージックの一つだ。

この原曲が、ジョージ・ハリスン(元ビートルズだった人)とロン・ウッド(ローリングストーンズに途中から入った人)の共作によるものだと知ったのはその数年後。
その原曲は1974年、二人のそれぞれのソロアルバムにおいて異なるバージョンで発表されている。
ジョージは「DARK HORSE」、ロンは「I'VE GOT MY OWN ALBUM TO DO」。
これらのアレンジや音色の違いなど聴き比べるとより一層深い趣を感じることができる。
私的には、ジョージ版は、
どこか「哀しみややるせなさがしぼり出てくるような感じ」がするし、ロン版は
なにか「心を開け放った後に微かに残っているやるせなさが見えてくる感じ」がして、
同じ心の機微を歌うんだけどそれに対するアプローチのベクトルが対照的に思える。

【聴き比べはこちらで】
大村憲司版 
ジョージ版 
ロン版 

一説には、スタジオで「Far east man」と書かれているTシャツをロンが着ているのをジョージが見て、そのコトバを素材にその場のノリで曲を作ったとも言われている。
それにしても「Far east man」って何なんだろう。
「極東の男」・・・。

とはいえ歌詞をざっと眺める限り、この曲に歌われている男の居場所が「極東」である必要はなさそうにも思えてくる。
そもそも「Far east」とは、日本だけではなくサハリン、韓国・中国あたりまでを大雑把に指す言葉であろうが、いったい二人はこの「極東」に何を込めて歌い上げているのだろうか。

さて、取っ掛かりになり易そうなのであえて日本の1974年前後の時代をまずは振り返ってみる。
1973年は、円=ドルがようやく固定相場から自由相場に移った頃。
日本の海外渡航者は2011年で約1700万人(法務省入国管理局「日本人出国者数」より)となっているが、
1973年に遡ればこの年はわずか230万人。
しかしこの230万という数字は前年比で164%と爆発的な伸びを示した結果であり、まさに当時は日本の本格的な「海外進出」黎明期であったといえる。
これを海外からの視点で言えば、1972年までは海外で見かけることができる日本人は今と比べ大変に少なく、日本人や日本文化などほとんどベールに隠れていた(あるいは興味の対象にもなり得なかった)時期だったといえよう。
(ちなみにYMOが「欧米に蔓延した、誤解された東洋」のイメージを逆手にとって海外進出を果たしたのは、この5年後の1979年のことである)

まあ多少乱暴だが日本でそうなんだから周辺の「極東」も大差はないであろう。
そんな時代にイギリス人の二人が歌い上げる「極東の男」とは、
世界の端っこにいて殆ど何の接点もないけど、でも確実に同じ地球の上で今も暮らしている、そして心のどこかできっと(潜在的に)繋がっている「見ず知らずの知合い」(矛盾してるけど)
といった程度の意味だったのかも知れない。
「彼方に棲む、まだ見ぬ友」の暗喩。
ジョージはすでにインドやパキスタンを通して「東洋の思想」に十分触れていたであろうから、「極東」という言葉にはやはりそこはかとない連帯感が込められているとも推測することができる。

前置きが長くなってしまったが、その上で本日ご紹介する水路はこの一枚。
私にとっての「Far east」riverのひとつ。

実際には「east」でもなんでもなくって、
その上「まだ見ぬ」わけではなくて既に見ているのだが、
今は私にとって「はるか彼方」になってしまった「心の極東」にある水路だ。

Imgp7662

よう、相変わらず元気で水を湛えているかい? またいつか会おう。

元記事はこちら

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もしかしたら、今回が2012年最後の更新になるかもしれません。
「彼方に、あるいは足元に棲む、まだ見ぬ川」たち、来年もよろしくお願いいたします。
そして、ご愛読者いただいているみなさま。いつもありがとうございます。
よいお年をお迎えください。

…おかげさまで暗渠本も売れ行きが好調のようです…
出版社の方のお話では、三省堂神保町本店では発売以来ノンフィクション部門でずっと10位前後をキープしているとのこと。渋いw
こちらも、改めて感謝申し上げます。

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